外傷性脳損傷患者のリハビリテーション場面において、患者の自分の障害に対する主観的評価とセラピストを含めた他者による客観的評価が乖離することはよく経験される事だと思います。今回は外傷性脳損傷患者における障害の自己認識と課題のエラー認識との関連、また障害の自己認識やエラー認識が遂行機能障害を予測し得るか調査した論文をご紹介します。
<対象と方法>
62名の外傷性脳損傷患者(男性49名、女性13名、平均年齢34.37±11.85歳)を対象に、意識障害評価(PTA・GCS)、脳損傷の障害部位、BADSの修正6要素テスト、NART(発症前のIQ推定) 、EAT(GO/NO-GO task)の成績を調査した。また患者の障害の自己認識と身近な他者(親23名、配偶者18名、兄弟10名、友人2名、子供1名、いとこ1名)による客観的評価としてCFQ、FrSBe、PCRS、DARTが実施された。患者群の神経心理学的所見について健常者サンプルと比較した。また前頭葉損傷群と非前頭葉損傷群の認識を比較するため患者と身近な他者の質問紙の結果を比較した。さらにBADSの修正6要素テストの成績を予測し得る変数を抽出するため回帰分析を行った。
<結果>
対象の神経心理学的特性において、患者群の受傷前IQは健常群(n=216)と同程度であったが、年齢については健常群より若干若かった。独立サンプルのT検定では、BADSの修正6要素テストにおいて患者群が健常群よりも有意に低得点であった(p<0.01)。
主観的評価と客観的評価の差の検討において、主観的評価と比較して客観的評価では認知機能障害の程度は有意に高く(p<0.0001)、前頭葉機能障害の程度は有意に高く(p<0.05)、ADL能力は有意に低かった(p<0.0001)。
主観的および客観的評価と認知機能評価との関連では、CEQ、FrSBe、PCRSの主観的/客観的評価と持続性注意の評価であるSARTの成績との関連の調査において、患者の主観的評価とSART成績には全て相関を認めず、CFQの客観的評価とSARTとの間に正の相関を認めた。
主観的評価と客観的評価との差とエラー認識との関連ではCFQ、FrSBe、PCRSにおける主観的評価と客観的評価の差はそれぞれ内部相関を認め、エラー認識のタスクと主観的評価と客観的評価の差の評価との間で全てに相関を認めた。
損傷部位と障害認識との関連では、前頭葉損傷群26名と非前頭葉損傷群29名の比較では、主観的評価と客観的評価の差において前頭葉損傷群で大きい傾向を認めた。
遂行機能を予測する変数の検討では、全ての障害認識、注意の評価とBADSの修正6要素成テストの成績との比較において、主観的評価と客観的評価の差とエラー認識の成績が、修正6要素テストの成績と相関を認め、回帰分析ではエラー認識の成績が修正6要素テスト成績を予測する上で重要な因子として抽出された。
<考察>
外傷性脳損傷後のエラー認識の障害は、メタ認知の障害と関連し、遂行機能に関する行動を予測する可能性が示唆された。
Connecting Self-Awareness and Error-Awareness in Patients with Traumatic Brain Injury.
Paul M. Dockreea, Yvonne M. Tarletona, Simone Cartona, and Mary C.C. FitzGeralda
Journal of the International Neurorpsychological Society(2015),21,1-10
http://journals.cambridge.org/download.php?file=%2FINS%2FS1355617715000594a.pdf&code=8e502c50b7d6aa64a22b52fd9ff5084a
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