動物においても人においても、良いパフォーマンスには報酬を、悪いパフォーマンスには罰を与えることによって、短期的にパフォーマンスが向上することが知られている。しかし、報酬や罰を与えることが、学習効果を長期間保持することに貢献するかどうかは、まだよく知られていない。我々は38名の健常被験者に対し、Tracking pinch force task*を用いて、報酬と罰が運動学習の長期保持に与える影響を検討した。我々は課題成績が良ければ金銭が与えられる群、課題成績が悪ければ罰金が与えられる群、課題の成績にかかわらずなにもされない群の3群に被験者を分けた。Tracking pinch force taskの運動学習の訓練直後、6時間後、24時間後、30日後に、再度同様の課題を行い、課題成績を比較した。結果、訓練後6時間後から金銭報酬を与えられた群とその他の群との間に有意差が認められ、この差が24時間後、30日後と期間を置くごとに開いていった。つまり、何も与えられない群、罰を受けた群は運動学習課題の成績が日を重ねるごとに低下したにも関わらず、報酬を与えられながら運動学習した群は日数の経過による成績低下が小さかった。以上より、運動学習課題において報酬が与えることによって、より効果的に運動学習が起こることが示唆された。
*画面に上下運動するマーカーが提示され、強くピンチ(つまむ)すると上に動き、力を弱めると下にマーカーが動く。このマーカーを、上下するターゲットと一致するように追従させる課題。課題成績はこのターゲットとマーカーの誤差によってあらわされた。
Abe M, Schambra H, Wassermann EM, Luckenbaugh D, Schweighofer N, Cohen LG. (2011). Reward improves long term retention of a motor memory through induction of offline memory gains. Current Biology, 21, 557-562.
コメントをお書きください